Day 94 刑事も絶句の極悪人?アブノーマルな雰囲気ゼロのオトコ。
監獄では特別な場合を除き誰でも、極悪人でも接見禁止でも、新聞に目を通すことが許されていた。
カネを払えと言われたことがないので、おそらく血税で賄われているのだろう。
時間制限はあったものの、無料の閲覧新聞が、何処の監獄にも設けられていて、
川越留置場ではそれが産經新聞だった。
面白いのは、たまに社会面の記事が切り取られていることで、
それは新規入場と実に見事にシンクロしていた。
一昨日、コロシに似たようなこと、をやらかしたとつぶやき、朝っぱらから7室を凍りつかせた男は、
今朝の運動時間、うかつにも様々なストレッチを披露してしまったことから、
ロン毛の執拗な詰問に遭い、しぶしぶながら、実は少年野球チームのカントクをしています、
と話してから、カントクと呼ばれていた。
そして、そんなアブノーマルな雰囲気ゼロのカントク入場翌朝の産經新聞も記事切り取りがあった。
もちろん、別な奴の余罪発覚や再逮捕の記事かもしれない。
だが、カントクの記事である可能性が最も高いと、私だけでなく、ロン毛も考えていた。
「あれ、カントクの記事だろう?」
「そうでしょうね。」
実は今日、留置場入場から48時間と経っていないのに、カントクのもとへ弁護士がやってきた。
そんな奴、いままで1人だっていやしない。大物の予感が7室に漂う・・・
カントクが長い弁護士接見から戻ったとき、思わず私は聞いた。
「長いこと泊まることになりそうですか?」
カントクは静かな声で、自分は長期刑になると思います、とうつむきながらも即答した。
ビッグショット間違いなし!
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取調室で、カントクの話をブチョーにふってみた。
「・・・でもな、殺人なら1課が出張ってくるんだよ。・・・コロシじゃないんじゃね?」
否定的な意見のブチョー。
だが、そこへメタボがコーヒーを持って入ってくると、
話を聞いたメタボが、すかさず口走る。
「アレですよ、部長。」
「アレ、ってなんですか?」
この時ばかりは、ブチョーだけでなく、メタボも貝のように押し黙ったままだった。
ようするに、カントクは、
そういう事件の主人公なのだった。