Day 90 スタンフォード監獄実験
裁判が始まっても、取調室で赤いテープのボールペンを手に、
うず高く積まれた文書化sith作品と対峙する私の非日常的ルーティーンワークが変わることはなかった。
よーするに、取調べは終わる気配なく続いていた、ってことだ。
私も飽きていたが、ブチョーはもっと飽きているようだった。
その証拠に、今日は珍しくブチョーの方から雑談をふってきたのだ。
「監獄実験、って知ってる?」
私は知らなかった。
健康な大学生を看守と囚人とに分け、模擬監獄を体験させる実験が米国で行われた、らしい。
ブチョーの記憶によれば、最初は仲良くやっていたが、次第に仲が悪くなり、
最終的に、完全に敵対関係にまで発展したという。
「看守役の学生が、囚人役をイジメるようになるんだよな。」
「たまたま、そういう性格だったんじゃないですかね?」
「いや、・・・」
誰でも程度の差はあれ、自然とそうなるようだ、とブチョーは言った。
ナポレオンが言ったように、
人はその制服どおりの人間になる、らしい。
この話には伏線があった。
最近、看守と被留置者とのトラブルが多く発生していたことから、
数日前から取調べの雑談で、私が話題にしていた。
「そうなんだ・・・」
留置場看守の経験がないブチョーは実感が湧かないようであったが、
「警備で行くことはあったし、担当者の愚痴を聞いたことある。」
こんな看守の話や、外国人に対して突然牙をむき出しにする釈尊の話をすると、
「ストレスが溜まるのは・・・お互い様だからな・・・」
不思議なことに、一方的に看守の肩を持ったりすることもなく、
被留置者に対しても同情的だった。
ブチョーは、警察官らしくない公平な目を持った人だった。
1971年8月14日から1971年8月20日まで、アメリカ・スタンフォード大学心理学部で、心理学者フィリップ・ジンバルドー (Philip Zimbardo) の指導の下に、刑務所を舞台にして、普通の人が特殊な肩書きや地位を与えられると、その役割に合わせて行動してしまう事を証明しようとした実験が行われた。模型の刑務所(実験監獄)はスタンフォード大学地下実験室を改造したもので、実験期間は2週間の予定だった。
新聞広告などで集めた普通の大学生などの70人から選ばれた被験者21人の内、11人を看守役に、10人を受刑者役にグループ分けし、それぞれの役割を実際の刑務所に近い設備を作って演じさせた。その結果、時間が経つに連れ、看守役の被験者はより看守らしく、受刑者役の被験者はより受刑者らしい行動をとるようになるという事が証明された。