Day 68 キャッシュカード事件
留置場で弁護士(当番弁護士のことではない)に来てもらうのは、すこぶる簡単で、
看守に一言いうだけで事足りた。
「弁護士さん、呼んで下さい。」
私選弁護士だけでなく、国選弁護士もコレで呼べる。(私はつい最近まで知らなかった)
拘置所ではこうはいかない。弁護士を呼ぶ者は手紙か電報を使う。こうなると、人によっては呼べない者もでてくるだろうし、なにより手間がかかる。この不便さも、代用刑事施設がなくならない理由の一つでもあるのかもしれない。
今、留置場のカウンターで、ちょっとした事件が起きていた。
今朝、大男が弁護士を呼び、夕方、弁護士が来た。ここまではよくあることだったが、
弁護士に渡すキャッシュカードが見つからない、と釈尊が声を荒げている。
「なかったぞ、ホントにあるのか。」
大男は同じ言葉を繰り返す。
「必ずあるから、探してみて下さい。」
このやりとりが数回、時間にして小一時間も、弁護士を待たせたまま続けられたが、
ついにカードは出てこなかった。
「弁護士先生、怒って帰ったぞ。」
弁護士に負けないくらい、おかんむりの釈尊。
弁護士から何か言われたに違いない。
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そして、その夜のこと、
「困った、困った。カードが見つからないから、弁護士にカネが払えない。」
口で言うほど、困った表情をしていないのは気のせいか・・・
「判決前に成功報酬を請求されたんじゃないですよね?
まさか、今さら着手金の話ですか?」
「まだ一銭も払ってないよ。出てから払うことになってる。」
辻褄が合わない。
出てから払う契約なら、今日、カードを渡す必要などないはずだし、
そもそも、着手金なしで動く弁護士なんているか?
この時、ある考えがフッと浮かんで、背筋が寒くなるのを感じた。
もしかして、この男、同房者だけでは飽き足らず、弁護士までも嵌めたのか・・・?
数日前、明石老人の指摘を受けた日から突然、私は代筆をやめた。
「どうしたの?」
動揺した大男が、しきりに尋ねてきたが、
具合が悪いだの、頭痛がするだのと適当に答えて避けることにした。
踊らされるのは、もう御免だ。
( ̄ー+ ̄) s:th (シスと発音して下さい)