Day 119 シンデレラ・ボーイ
運動の際、片方のサンダルを必ずと言っていいほど忘れてくるそのオトコを、
(あるいは故意に置いてきていただけなのかもしれない)
いつしか看守達は「シンデレラ・ボーイ」と呼ぶようになった。
そういうふざけたネーミングセンスの持ち主はコイツしかいねえ、とニラんだ通り、
「オレがつけたんだよ。」とスパイは言った。
残念だったのは、シンデレラと聞いても、
一体なんのことか、わからないという奴が意外なほど多かったことで、
しかも、呼ばれていた人物が、その中の1人だった。
シンデレラ・ストーリーを常識に含めるべきか、否かについて、
賛否両論あると思うが、知らないからと言って、
日常生活に支障をきたす類の知識ではない。
しかし、それを知らずに育った環境には、
彼らがブチ込まれるに至った原因に関して、
なにかしらの責任があるのではないかと私は感じた。
シンデレラ・ボーイのやらかした犯罪(盗犯の刑事が調べているという噂だったから、
おそらく、そうなんだろう)に、それなりの興味があるにはあったが、
誰も聞きだすことができなかったし(質問に対し、答えにならない回答をするところが彼にはあった)、
彼自身が自分の罪状はおろか、自分が何者であるのかさえ、理解していなかったのではないかと、
その不安定な言動は、強く我々に感じさせた。
数回の出廷の後、静かに出て行った彼の移管先は、予想に反して拘置所だった。
(彼が精神鑑定になると予想していたのは、私だけではなかった)
彼の姿をその後見ていない、それっきりだ。
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それから、随分と経った頃、不意にスパイが、シンデレラ・ボーイの判決の様子に触れた。
「・・・雰囲気的に執行猶予の流れ、だったんだよ。
俺たちもそう思ってたし、なのにアイツ、裁判官から、
最後になにか言いたいことはありますか?って聞かれて、
僕は自分のしたことが悪いことだと思っていませんし、なぜ、ここにいるのかもわかりません。
とか言い出してよ、弁護士も慌てて止めたんだけど、結局、実刑判決だよ。
裁判官はアレ聞いて、執行猶予つけるのやめたんじゃねぇかと、俺は思ってるんだよね。」
死亡法廷での出来事だそうなので、おそらく裁いたのは、このお方だ。
留置場から出廷する被告は、留置場サンダルで入廷する。
嘘のようなホントの話だが、シンデレラ・ボーイは毎回、
被告席にサンダルを残したまま、退廷しようとしたそうだ。
( ̄ー+ ̄) s:th (シスと発音して下さい)