Day 48 犯罪収益に群がる人びと
朝の房掃除は、掃き掃除、雑巾掛け、便所掃除等を各人で役割分担して行う。
不公平にならないよう、一週間で役割を交代する房がほとんどだが、
私のいる7室だけは固定性を採用していた。
私が入場する前の話だが、ボスキャラのロン毛が
「ジブン、便所掃除やるんで、他は皆さんでやってくださいよ。」
かような宣言をしたことがキッカケとなって役割固定の流れが生まれたと聞いた。
しかも、ロン毛の便所掃除専任宣言に続き、大男が
「じゃ、掃き掃除やります。」
と、間髪入れずに宣言したため、選択余地がなくなって仕方なく雑巾掛けをやることになったと、
今はなき若者から直接事の成り行きを聞いた。
前科8犯のロン毛はともかく、初犯のくせにこの大男、
獄中での身のかわし方に妙にこなれたところがあり、
奴が貧乏くじを引くところを一度として見た記憶がない。
そして、そんな世渡り上手な2人のおかげで、
以降、7室では四つんばいになっての雑巾掛けが新人の仕事として完全固定化されてしまった。
もちろん私も入場当初は雑巾掛けをやらされた。
ところが運の良いことに、わずか1週間ほどで、
歯科医専門のコソ泥が転房してきたので、
苦痛を感じる前に卒業した。
今は仕事にあぶれた風を装い、雑巾で鉄格子を拭いてお茶を濁している。
大男のような天賦の才は備えていなかったが、ツキはあったようだ。
そんな大男はまた、悪銭稼ぎの才能にも恵まれていたようで、
数千万もの犯罪収益隠匿に成功(本人談)しており、
その恩恵は手紙代筆という代償を伴いながらも同房者に及びつつあった。
ロン毛はこれから迎えるちょっと長めの受刑生活に必要な領置金を、
歯科医専門のコソ泥は保釈金を、2人とも手紙代筆と引き換えに担保されていた。
つまり私を除いた全員が、隠匿された犯罪収益に群がっていたのだ。