Day 46 姑息な職業変更
慣れない生活だったとはいえ、ほぼ毎日取調べが行われていたおかげで、
精神的には意外なほど安定していた。不安を追い出したいなら、
暇な時間をつくらないことがイチバンなようだ。
また、取調室では、熱いコーヒーが飲めたし、タバコが吸えた。
どちらも、留置場では望むべくもないサービスで、
隠蔽することのない被留置者(隠蔽することのある被留置者も同じかもしれん)にとって取調べの時間は、
実は快適なものだったりするのである。
今、私はヒデさんの助言に従い、ブチョーに職業変更を願い出ていた。
「執行猶予になるかどうかの瀬戸際なら、無職はよろしくないでしょう。
ホントになにも仕事してなかったんですか?してたんでしょう?
だったら今からでも変更してもらうべきですよ。」
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身柄拘束されると通常の取調べに先立ち、まず身上調書が作成される。
私の場合、100日以上内偵されていたので、
ところどころ空欄のほぼ完成された状態で雛形が用意されていた。
職業欄は空欄で質問されたのだが、
今から考えるとそれもある種ワナのようなモノであったのかもしれない。
1ヶ月以上も内偵して被疑者の職業がわからない刑事なんているか?
当時の私は、プロパーから業務委託に立場を変えた矢先だったことから、
先方に迷惑をかけることは避けたいと考え、
「無職、です。」
と答えたところ、ブチョーから本当に無職でいいのか、念を押されたことを憶えている。そして今、
ブチョー
「あの時、無職でイイ、っつったじゃねえか。変えてくれ、っつーなら上申書書かせるけど、
上がなんて言うかわかんねぇぞ。」
実は、取調べでの職業選択はシャバよりはるかに自由があり、自己申告がそのまま通る。
根拠がなければ自称を付けられるだけの話で、
現にヒデさんの職業は、自称会社社長になっているらしい。
「それでも、無職よりはイイと思いますよ。」
この人の何事にも自信満々なところは見習うべきところだ。(見習っちゃいかんところもモチロンあった)
上申書は、警察署長宛てに自筆で書くもので、決められた形式はない。
取調官主導の取調調書と異なり、被疑者が自由に自分の意見を書くことができる。
ブチョーによると、すべて上申書で提出しても取調べはOKらしい。そうしないのは効率の問題だと思う。
私は遡ること数年前、友人が独立する際、名義を貸した。
有限会社の発起人が3名必要で、友人とその奥さんから頼まれたのだ。
出資はなく、従って報酬もなかった。だが、名前だけとはいえ会社役員だ。
すでに、起訴状の職業欄も無職になっている今、どこまで通用するか甚だ疑問ではあったが、
なにもやらずにこのまま不安を抱えて生活するなら、なにかするべきだと思う。
たかがこんなことでも、取調べの時間が増えるわけだし。
法廷は、あなたの地位の如何によって、白と見るか黒と見るかを決めるのである。
ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ